述  懐

   若き日 藩侯の墓前に誓う

                          壽三山 作


  我 志を得ての十代の三年間は

  臥竜山興国寺に篭りて

  上京して法律を学ばんために 

  書を読ことの明け暮れであった



  午前零時の決め事 それは

  観音様に学業成就を祈願するために

  徐に観音堂に登る

  参拝を済ませると 

  観音堂より更に 木立をわけ入り

  直虎公の御霊屋(おたまや)に詣でる



  藩侯の墓前に額ずきて 幕末の露と散った

  藩侯の無念をお慰め申し上げ

  藩侯の恥辱を祓うを誓う

  須坂の長久と栄えなるを願い

  いずれは 須坂の要にならんことを誓い

  藩侯に我が志の成就するを願い奉った



  それは 青春の鼓動 青春の胎動なり

  臥薪に耐え 幾たびの辛酸を舐めても

  藩侯との約束を守らんと 今の我あり



  この時期の観音堂台は

  月愈愈に冴えて稜線はどこまでも蒼く

  八町山(明徳山)は、月光を燦燦と浴びて 

  百々川は 月に応えて せせらぎは 嘶きと化し

  将に森羅万象なり 将に絶景にて候



  嗚呼 歳月は流れ 五十路を半ば越えるに

  今尚、忘られぬるは 観音台の月影よ 

  忘れがたき 北信濃のふるさとよ 

  山よ 川よ 蒼き空よ 老松よ

  逝きし人々よ いま心に甦る



  わがこころの ふるさと それは須坂