母校に咲く 桜の賦命

の春、墨坂中学校を卒業したみなさんに贈ることば

平成十年度PTA会長 佐藤壽三郎


 ご卒業おめでとう。この原稿が活字になるころ、母校墨坂中学校の校庭の桜も、君たちが生涯のうち3年間を墨坂中学校で過ごしたと言う生涯消しがたい事実と、君たちの成長を見守ったと言う確かな歴史の誇らいを年輪に刻んで、満開に花を咲かせていることでしょう。そして、いつの日にか成長した君たちが、必ず母校を訪ねてくれるを信じ、毎年同じ花を咲き続けると思います。母校の庭に咲く桜とはそういうものであり、これすなわち母校に咲く桜の賦命と申せます。しからば君の賦命は何でしょうか。君はそれを見つけ出すため立志し、旅立ちをしたのであります。


 三年前の君たちの入学式で、私はPTAの会長として、「天 我が材を生ずる 必ず用あり。」と李白の詩を引用して、人生焦るな、誰にも世に出る日が必ずあるから、その日のために頑張ろうとエールをおくりました。当時まだ小学生のあどけなさが残る君たちは、新調の詰襟やセーラー服に戸惑いを見せながらも、真剣な眼差しでこの式に臨み、食い入るように校長先生や来賓の挨拶を聞いていたあの日から、早三年を経たこの3月、凛々しく成長して母校を巣立たれる卒業式に立ち会うことは、3年前にPTAの役員を務めたればこそ与えられた感激でありました。


 197人の卒業生が、やがては197の色彩りをそえて成人し、さらに各々が思う「幸せ」の価値観を噛み締めながら、気骨ある人生がありますように祈念いたします。遅くても、のろまでも、器用でなくても、しかし何歳になっても志を萎えることなく、願わくば、「我が故郷忘じがたく候」の熱き心もてる生涯であって欲しいと思います。郷里須坂が一大事のときは、最果ての地にあろうとも、飛んで須坂に馳せ参じ須坂を守る心もて。いつの世も、君の故郷は緑なりき。

                          (平成13年3月17日記す)




 李白の漢詩「将進酒」の一節より。


君見ずや 黄河の水 天上より来たるを。奔流し海に到って 復た帰らず。

君見ずや 高堂の明鏡 白髪を悲しむを。朝には青糸の如きも暮れには雪と成る。

人生 意を得れば 須らく歓を尽くすべし、金樽をして空しく月に対せしむる莫かれ。

天 我が材を生ずる 必ず用あり、
〜 以下略 〜




(中国名詩選 松枝茂夫編、岩波文庫)