青春の追憶 

映画「忍ぶ川」

 昭和40年代初頭に上京した私にとって、映画館は一番気が休まりこころ落ち着く場でもあった。都心でありながら、一人でも時間が過せて、極めて安全性の高い場所でもあった。学割という特権が映画館と通学定期が、まだまだ大らかに幅を利かせていた時代でもある。田舎の3本立て興行と違って、東京の映画館は1本上映であった。学生時代の1、2年生の時は、喫茶店で時間を潰す暇があったら、映画を見ることを選んだものである。

 そんな訳で元々映画が好きであったが、なお一層映画が好きになった私は、学割が利かなくなっても青年時代も数多くの映画を観た・・・

 今でも心に残る映画は沢山あるが、加藤剛・栗原小巻が演じた薄幸の娘の物語「忍ぶ川」。原作の三浦哲郎の流れるような作風もさることながら、映画「忍ぶ川」は白黒の映像の美しさではなかろうか。最終章での岩手の哲郎の実家の窓から見入る宵と真っ白な雪のコントラストは白黒が冴えて、栗原小巻がなんと美しく耀いてみえたことか。更に「しの」が汽車の窓から嫁いだ哲郎の実家を見つけると、指さして「あれが私の家だね」とはしゃいでみせる場面は、涙なくして観れない感動のシーンである。40年も前の感動が今尚心に残るものである。

 二十歳代に読んだ本に、このシーンの写真が貼ってあるのを先日発見したが、何かしらこみ上げてくるものがあった。高校時代から栗原小巻の熱烈のファンであった私は、ビデオが侭ならないあの時代に、この映画「忍ぶ川」を脳裡に焼き付けたのかもしれない。いつもでも心に残る「名画」である。折りあらば、いま一度観たい映画である。


2013/12/16記す。