地方議会が抱える課題:反問権の是非について
                               
須坂市議会議員 佐 藤 壽三郎

1)議会に「やらせ質問」はあるのか

 須坂市議会は定例会1週間前に議会運営委員会が開催される慣わしになっているが、この議会運営委員会前に市長との間で懇談会等を持つことはおかしいと、かって4会派は異論を唱えたことがる。議会運営委員会が次回議会に上程される議案の開陳であり、このことは議会では最も重要な市長部局との接点であることからすれば、次の定例会の上程される議案内容が事前に一部の議員に知れる行為は、情報の漏洩として捉えるべきである。

 このような事前協議が果して、他の自治体で行われていたのか、地方議会と市長との間の慣行としてあったのであろうか調べてみたところ、
@  中部地方のある市は2年ほど前(2002年)から、幹部職員と議会最大会派の議員らが議会前に懇談・会食することを廃止したとあった。この慣習について、「議会運営のやりとりを調整しているのが実情で、ほとんどスキャンダル」と指摘されている。議会がお飾りであって議会が自らの役目を放棄していた証左である。
A  名古屋市が今年2月議会(2004年)から、一般質問の答弁書を事前に議員に提供する慣習を廃止し、更に2月議会(2004年)で、取り上げて欲しい質問を事前に議員に渡して質問してもらう「やらせ質問」の慣習を廃止したそうです。廃止理由は「新しい案件や計画を事前に議員に説明するのは、議会の時間も限られているので必要だが、それが議会のチェック機能を弱める事態につながるのでは本末転倒だ」とのこと。此の事例は、議会のやる気が十分窺え拍手を送りたくなるではありませんか。

 さて、「やらせ質問」は、当市議会でも過去にあったことは事実です。発言される議員の冒頭部分の読み下しで直ぐに分かりましたが、滔々と恰も自論や自説のように厚かましく原稿を朗読する様は、拝聴しているとどんな喜劇よりも滑稽でしたが、やがて同情を禁じえない悲しさに変わったものです。半ば強制的に「やらせ質問」を行うというよりもやらされる。本人も田舎芝居をしている呵責があるのでしょうか、言葉の端節に「ぱしり」をさせられている屈辱感を払いのけようと苦悶する姿が、ひしひしと伝わって参ります。議員としての矜持がいくらかでもあるならば、「やらせ質問」を拒否する勇気を、是非持って欲しいものと感じたものでした。



2)「事前通告の廃止」の行間を埋めるのが反問権か

 事前通告制を廃止すると、市長と議会間とに「阿吽の呼吸」が無くなることを弊害として挙げる学者や議員もいます。

 実際に事前通告を廃止する場合、一般質問に立つ議員が、何が問題で、問題解決のために何が必要かの指摘が必要であるが、殆んどの議員は素人であり文書作成を得意としない。そこで質問や質疑の焦点がぼけて、市長をはじめとする答弁者は、議員に質問の趣旨を問い直す「反問権」を会議規則に盛り込む必要性を訴えますが、私は『議員の質問の趣旨を問い直す』行為は「質問内容の確認若しくは特定行為」であって「反問権」ではないと思っています。そもそも「反問権」たる権利など議会運営においては存在しないと考えます。なぜならば、須坂市議会も含めて、議会では議員が一方的に質問し、執行部側は議員の質問を前提に答えるのが基本である。市長や職員らが逆に主体的に質問することは一般質問或いは代表質問の趣旨を逸脱した行為であるからです。

 須坂市が採用している一問一答方式を導入するに合わせて、反問権を制定した市もある確かにあります。一問一答の弊害は、質疑応答が日常会話の如く応答され、質問内容が絞られない場合は、質問内容が本旨より逸脱し、質問趣旨自体が市長も質問議員自身も分からなくなることを見かけます。このような場合に答弁者は「質問趣旨を聞き返す必要は出てくる」ことは確で、これは須坂市議会においても感じます。然し一問一答は議長が行事役として耳を研ぎ澄ましていて、質問要旨から一問毎に遠ざかるを、無意識に得意とする議員に対し、議長が議事進行権を発揮して、質問議員に「何を聞きたい」のかを質せば、世に言う「反問権」は必要ないと感じます。



3)「反論権」を認知することはできない。

 市長が質問議員の質問内容に反発して「では、議員はどのような代替案をお持ちか」とする「反論権」が市長にあるかと言えば、議会としては市長にこれを許してはいけないと考えます。これを許せば議会はいつしか市長から上程される議案至上主義に陥る弊害に陥り、議会の機能や権能を議会が自ら放棄することにつながるからであります。二元代表制の本質が損なわれると思います。政策提言型の標榜が求められている昨今、市長の「反論」によって議員が代替案を陳述することが、提言型議会とはニュアンスが違うと感じます。。



平成24年10月31日記す