極めて恵まれた青春時代

市議会議員 佐藤 壽三郎


 二十代を振り返れば、私は特異な学生生活を送ったと言える。大学1、2年次は、一般教養課程を無難に修得するまではと、白山台の学舎にせっせと通ったが、3年次になると、法律専門家になるための本格的勉強をするために、どうしても時間が足りないことを感じた。そこで白山台に通う往復の通学時間と履修講義を1年もかけて学ばねばならないタイムロスを考えると、国家試験科目以外の講義に漫然と出席する時間が惜しくなった。そこで登校しても図書館に詰めて、閉館時刻まで司法修習生になられた先輩から、指定された基本書の読み込みに専念することとした。図書館職員から閉館を告げられるまで、兎に角基本書を読み込んで帰る生活パターンとなった。登校しない時は、銀座の笠井法律事務所に籠り、基本書の読み込みをして時を過ごすようになっていた。

 ある日、司法修習を終えられたばかりのH弁護士さんが、日頃から大学を越えて仲の良い岩崎、重田君の3人に、受験指導を賜ることとなった。岩崎君がH弁護士と同じ法律事務所にいたこともあり、学習場所はと応じ当時、首相官邸坂下にあった法曹ビル内の田宮法律事務所で、週2日指導を戴くこととなった。この3日置きの学習会の為の予習を怠れば、仲間に迷惑をかけるし、学習会についていけないので、全て学習会の進行に沿った予習・復習に充てることとした。

 弁護士指導の学習会で、司法研修所を出られたばかりの高度な法知識と課題の捉え方を、基礎から惜しみなく教えて頂いた。3年次に進んだ折に恩師から「法律家を志す以上、学内の3、4年次の前期試験や後期試験の為の勉強は一切するな。六法の持ち込みだけで答案を解く癖を付けなさい。」と諭されていたこともあり、学内前期・後期試験の為の試験勉強は一切しなかった。

 集中指導を受ける学習会の成果は徐々に顕れ、学内試験は日頃の学習会の答案練習の位置づけと心得て臨んだ。学内試験は極めて基礎的なことを問う試験であったので、敢えて学内試験のための勉強などは不要であった。

 法律家になるべくH弁護士の他に、笠井法律事務所に関わりのあられるM弁護士、S弁護士、K弁護士、K弁護士さんたちの惜しみないご指導も賜った。先生方の授けて下さるヒントを何とか理解しようと、基本書を何遍も咀嚼を繰り返しながら法律的思考鍛錬漬けの毎日であった。

 試験勉強一筋に集中できる生活の機会を与えて下さった、恩師である弁護士笠井盛男先生には、生涯に亘って感謝に尽きない。極めて特異であった生活パターンであったけど、法律家になるために辿る当たり前の生活であり、この道を選んだ以上当然の試練と少しも苦にはならなかった。極めて恵まれた青春時代を過ごすことが出来たことは、偏に恩師のお陰であり、私の生涯に亘る財産となった。

令和元年(2019年)12月31日