聖堂脇の蕎麦屋


 
 学生時代の話である。

 杉並は和田、立正佼成会聖堂脇の坂の中ほどに蕎麦屋があった。屋号は忘れたが、「信州蕎麦」の看板に惹かれてこの店に入った・・・


「いらっしゃい!」
「えーと。もり3枚」、

その屋の主(あるじ)が
「2枚にしといたら?」と言う。

僕が訝しがっていると

「当店のもりは量があるから、3枚も食べた人はいませんよ・・・」と言う。
「じゃぁ2枚!」と渋々承諾した。


やがて蕎麦が運ばれてきた。タレにわさびを溶いて、薬味を加え徐に・・

チュル・チュル・ジュルゥーチュルルゥ と蕎麦を食べていると、先ほどの主が調理場から出てきて、私が蕎麦を食べている様を眺めているではないか。

???・・・と思いながらも

1枚を食べて2枚を食べていると、調理場から盛り蕎麦がテーブルに1枚届けられた。

???・・・

チュル・チュル・ジュルゥーチュルゥゥーと蕎麦はのどを滑りこむ。

僕の蕎麦を食べる音に惑わされたのか、食べぷっりが良かったのか、主が3枚目を持ってきたのである。

 なるほど!主が言うようにこの屋の蕎麦の量は聊か多かったが、蕎麦は滑るように胃袋に納まった。久々に郷里「信州蕎麦」を鱈腹食べれた私は、郷里を思い浮かべながら下宿に引きあげた。